ニュースの概要
Bloombergの報道によると、アジアで販売されるスポーツ放映権は年間およそ60億ドル規模にのぼる。そのうち約半分の放映権料を、Netflixとその競合、さらに中国のTencentといったデジタル事業者が支払っている。かつてアジアの放映権市場は、各国の地上波や衛星放送、ケーブルテレビ局が主役だった。ところが今は、配信事業者が最大の買い手の一角に並んだ。スポーツは「契約者をつなぎとめ、新規加入を呼ぶ」ための強力な看板コンテンツになりつつある。放送から配信へという流れが、放映権の値段と売り方を根本から変え始めている。
引用元: Netflixなど配信大手がアジアのスポーツ放映権市場で存在感を拡大(Bloomberg)
分析・見解
放映権の半分を配信が払う、買い手の顔ぶれが入れ替わった
これまで放映権の買い手は、視聴率と広告収入で元を取る放送局が中心だった。広告枠が売れる範囲でしか、権利に払える金額は決まらなかった。配信事業者は事情が違う。月額料金を払う会員を増やし、解約を減らせれば、投資を回収できる。1試合あたりの視聴者数だけでなく、会員の増加数や解約率の改善まで価値に含められる。そのため放送局より高い金額を出しやすい。放映権料の約半分を配信側が負担しているという数字は、この体力の差がはっきり表れた結果と読める。
スポーツは「会員をつなぎとめる接着剤」になる
ドラマや映画は、見終わればそのサービスを離れる人も多い。スポーツは違う。シーズンを通じて毎週のように試合があり、見る習慣が続く。しかも結果を後から知ると面白さが薄れるため、ライブで見る動機が強い。配信事業者にとって、スポーツは映画の大作より安定して利用者を呼び戻せる商品である。米国ではNFLのクリスマス試合などでこの手法がすでに試され、成果を出してきた。アジアでも同じ発想で、有力な試合を選んで買う動きが広がっていると考えられる。
アジア特有の難しさ:言語・通信環境・支払い手段のばらつき
ただし、アジアは米国のように一つの市場ではない。言語は数十種類にのぼり、通信速度やスマートフォンの普及度も国ごとに差が大きい。クレジットカードを持たない人も多く、課金の方法は国別に工夫が要る。中国のTencentが強いのは、自国の巨大な利用者基盤と決済網を持つからである。Netflixのような海外勢は、現地語の実況や解説、通信料の安い国向けの画質設定、携帯会社との料金セット販売などで差をつける必要がある。放映権を買うだけでは勝てず、届ける仕組みまで含めた総合力が問われる。
権利の分割販売が進み、一社独占は続きにくい
配信各社が競り合うほど、権利を持つ側は有利になる。リーグや競技団体は、国別、言語別、ライブと見逃し配信別、ハイライト別と細かく切り分けて売れる。独占で高く売る方法もあれば、複数社に分けて露出を広げる方法もある。一方、買い手側は高騰する権利料に耐えきれず、他社との共同購入や短期契約に傾く可能性がある。放送局が配信事業者に番組を供給する、あるいは両者で共同出資するという逆の動きも出てくるだろう。今後は「誰が独占するか」より「どう組み合わせて配るか」が焦点になる。
ビジネスへの影響
スポーツ団体・クラブは「売り方の設計」を見直す好機
買い手が増え、予算の大きい配信事業者が加わったことで、権利の価値が上がる余地は広がった。ただし高い金額だけで決めると、視聴者がサービス加入の壁にぶつかり、露出が減る危険もある。放映権の一部を無料のダイジェスト配信やSNSの短い動画に回し、ファン層を広げる設計が有効である。契約では、データの扱いも交渉の対象にしたい。視聴者の年齢層や見る時間帯の情報は、スポンサー営業や商品開発の武器になる。
広告主・スポンサー企業は配信内の露出を前提に計画を組む
配信サービスの多くは広告付きの安価なプランを用意しており、スポーツ中継はそこに広告を出す入口になる。テレビCMの発想のまま出稿すると、狙った層に届かない場合がある。試合中の画面表示、選手の個別動画、ライブ視聴中の購入導線など、配信ならではの手法を組み合わせたい。効果は視聴者数だけでなく、サイト訪問や購入までの流れで測ると、次回の予算判断がしやすくなる。
日本企業はアジア向けの現地語コンテンツで接点を作れる
日本のスポーツ関連企業や選手のマネジメント会社にとって、アジアで配信が主流になることは追い風になりうる。放映権を持たなくても、選手の舞台裏や練習風景、用具の開発物語といった周辺の映像は需要がある。現地語の字幕を付けて配信各社やSNSに提供すれば、ファンとの接点を安く作れる。まずは一つの国と一つの競技に絞り、反応を見ながら広げるのが現実的である。